Project / Column

広島大学 様

【事例】実務で活きるデータサイエンス普及に向けて

研修

  • 学術研究

MEMBER

広島大学 様

AI・データイノベーション教育研究センター 連携部門長 串岡 勝明氏
AI・データイノベーション教育研究センター 連携部門 特任教授 野村 典文氏

アポロ株式会社

Business Division Consulting Unit マネジャー 熊坂 惟
DDD Division DS・AI Biz Unit マネージャー 山田 晃平

イントロダクション

2016年に発出された「Society 5.0」に始まり、データ利活用やAI 普及が急速に進んでいる。しかしながら実情は、企業でのデータ利活用はスムーズに行われておらず、そもそも利活用のできる人材の育成が追い付いていない現状がある。そのような状況下で、人材育成やデータ利活用への理解を進めるために、各大学や企業でデータ活用できる人材育成に取り組んでおり、広島大学では企業向けのデータサイエンス講義を開講している。

しかし、企業が求める、ビジネス実務におけるデータサイエンスの実践については、広島大学のアカデミックな知見と教鞭力だけでなく、ビジネス実務の深い知見も掛け合わせた講義の提供が求められていた。そこで、実務でのデータ利活用を進めてきたアポロが教材や講義の提供、チューターによる受講者のサポートを行うことで、ビジネスにおける実践力の習得に寄与する講義を提供することができた。

プロジェクトサマリー

背景

データやAI利活用が急速に進む中、データ利活用ができる人材不足や教育に日本全体が苦慮している。広島大学では、データ利活用のできる人材を育成するため、企業向けデータサイエンス講座を提供している。

課題

広島大学は、大学と企業間でのギャップと、政府主導と地方とのギャップの2つの意味で課題を抱えていた。

1. 大学と企業間の課題

  • 企業ではデータの活用方法が求められているのに対し、大学での講座では、その背後にある数理にフォーカスが当たりすぎており、企業ニーズとミスマッチが起きやすい点。

  • 数理にフォーカスが当たっているため、講義で扱うデータ自体、整然であることが多く、データの質自体を問題とすることが少ない。一方実務では、データのクレンジングや前処理に多大な労力がかかるケースが多々あり、そうした観点を押さえなければ実践力が身につかない点。

2.政府主導と地方間の課題

  • 講義内容が各大学の裁量に任されて自由度が高いが故の、実務に活かしやすい講義の具体設計。

  • 受講者の業種や業務内容が違い、普段データに全くかかわりのない受講者が多い中で、全国一律で、一斉実施となってしまい、結果的に個々人の力量に左右される点。

解決

実務の中でのデータ利活用を推進してきたアポロが、教材、講義を設計、講義することで、手法だけに閉じず実践も見据えた内容を提供した。またグループワークをメインとしたワークショップ形式とチューターによるサポートにより、どのような場面でデータを利活用しているかを各グループが検討し、個々人が自分事として捉え実務に活かしていけるようなデータサイエンス講座を提供できた。

データ利活用ができる人材育成の課題

2016年度に発出された、政府主導の「Society5.0」に始まり、DX推進やビッグデータ利活用が活発になってきている( https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/ )。しかしながら、急速なデータ利活用需要に対して、データ利活用ができる人材確保や育成が、日本全体の課題としてあげられている ( https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd112490.html)。人材育成のために、経産省主導の「AI Quest」をはじめ、AI人材育成用カリキュラムが組まれ実施されている( https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11875095/aiquest.meti.go.jp )。

「AI Quest」を基に各大学, 企業が取り組み始めているが、データの利活用ができる人材を育てるための具体化に苦戦しており、広島大学でも講義設計や実施に課題を抱えていた。
アポロでは広島大学での講義の実施支援を行っており、第一回目は小売り企業における時系列分析の実務活用を題材に講義を展開した。

アポロ 山田:
企業向けデータサイエンス講義を提供のために、アポロへ講義実施支援依頼した際に、広島大学としてはどのような課題を抱えていたのでしょうか?

広島大学 野村氏(以下、野村):

「大きく分けて2つ、1. 大学の講義と実務にギャップによる課題と、2. 政府主導と地方でのギャップに課題がありました。」

山田:
大学の講義と実務にギャップによる課題とは具体的にどのようなことでしょうか?

野村:
「まずは、講義内容の需要と供給です。一般的に大学の講義ではデータサイエンス手法の数理を中心に教授していますが、企業向けの今回の講義では、実務でのデータ活用方法が求められる点に大きなギャップがありました。
次に、アカデミックと実務での環境の違いです。大学で扱うデータサイエンス講義は、きれいに整ったデータに基づき、手法が選択され、結果を見ていくという、実務とはかけ離れた理想的な状態で展開されていました。しかし実務では、そもそもデータを集めなければいけない、そのデータも分析するように整備されていない、分析やモデル化の期限が定められている等の制約がある中で利活用を進めなければならず、そういった場面での利活用方法は講義ではなかなか教授できていませんでした。」

山田:
もう一つの、政府主導と地方でのギャップによる課題はどのようなことでしょうか?

野村:
「経済産業省が作成したデジタル人材育成のためのデータ付きケーススタディ教材として、「AI Quest」、現在の「マナビDX Quest」という教材があります。大変、優れた実践型の教材ですが、現行の講義では、参加者のスキルやモチベーションに依存する部分が多く、自らのやる気を前提としています。しかし、地方においてはデータになじみのない人や、どう勉強して良いのかわからない人が大多数です。「AI Quest」をそのまま提供すると実務に活かすまでのハードルが高く、結果的に個々人の力量に依存してしまうことが予想されました。」

実務に活きる講義提供に向けて

山田:
アポロはこれまで、小売り、卸売り、不動産、航空等々多種多様な業種にデータ利活用コンサルティングを行ってきました。講義ではその中でも小売りでの時系列分析を題材に、手法よりかは課題定義、それを解決するための設計、その際に想定される懸念点等々、データ利活用のプロジェクト推進という体で、受講者をグループに分けてディスカッションしてもらいながら進めていきました。

山田:
実務に沿った講義という意味での実感はありますか?

野村:
「はい。想定していた、課題設定、解決手法、アウトプットの流れを限られた環境の中で実現する視点を各グループが持つことができたと感じています。従来の大学講義での、モデルを詳しく説明し、パラメータチューニングの手法を学んだが、実務でどう使えばいいかわからない状態から脱却できたと思っています。データサイエンスの高度なテクニックは紹介程度でしたが、グループによってはそれよりも高度な別手法を使った発表をしているところもありましたし、簡易的な分析からそもそも目指すべきゴールを再定義して進めていたグループもありました。」

山田:
アカデミックと比較して、今回の講義は実務へ活かしやすいものになっていましたでしょうか?

広島大学 串岡氏(以下、串岡):
「はい。アカデミックでは分野間の隔たりが未だ強く、たとえば医学では医学、工学では工学と縦割りになってしまい、それぞれの分野で使っている手法を共有すれば解けそうな問題や、そもそも同じような問題に取り組んでいるのに非効率な手法を選んでいる等があるのが現状です。ですがアポロに提供していただいた講義では、課題設定から結果が出るまでを一通り学べたと思うので、この分析手法は他の場面でも活きるのでは? といった、より自分の手元の実務や他業種へ転用しやすい考え方を身につけられたのではないかと思います。」

山田:
個々人の力量への依存は解消できたと思いますか?

野村:
「はい。今回アポロに依頼した際には、講義担当だけでなく、チューターによるグループのディスカッションにも協力いただき、それぞれのグループでの役割分担や進め方のバッファとして機能していたと思います。まさに小さいプロジェクトを進めているかのように、グループ内で自分のできる範囲で、課題設定、データ分析、資料作成を役割分担しながら進められていました。そのおかげで、個々人の力量への依存は一定解消したと思っています。
また、アポロの皆さんはほめ方が上手で、受講者のモチベーション向上にもつながっていたと感じています。データ利活用のコンサルティングを実施し、実際に分析まで行っているアポロだからこそできていたことだと感じています。」

山田:
講義を通じて、アポロならではの良さを感じる点はありましたか?

串岡:
「課題設定、必要な手法の選択、最終的なアウトプットといった流れをしっかり提供できていたことが大きいと思います。アカデミックの場合、手法だけで閉じてしまう講義が多く、如何に利用するかという視点はなかなか教授できていないと思います。
またアポロの提供していた講義では、如何にデータを利用していくかというところに着眼点があったため、様々な業種の受講者が自分の実務にどう活かせるかにつなげやすかったと思います。進める際の泥臭い作業や落とし穴といった点も講義に織り込まれていた点もよかったと思っています。」

今後のデータサイエンスに期待されること

山田:
データサイエンス教育と企業でのデータ利活用に関して、今後どのようなことを期待していますか?

野村:
「データサイエンス学部が出てきたり、AIやデータサイエンスの関心度が上がって、データに関する専門職も増えてきました。が、それを使って何を解決したいのかという点が欠けている場合が多いと感じています。また実務の中では、上流をコンサルタントが、実際の分析をベンダーがといった構図になりがちで、データサイエンティストが意図を汲みとれず、クライアントの想定したアウトプットと違って、分析側もクライアント側も不幸になるといったことが多々あると感じています。手法だけに閉じずに、産学が連携して、解くべき課題を明確にし、それを解決する分析技術やAIを考え、プロジェクトを進められる人材が増えることを期待しています。」

串岡:
「企業に向けたデータサイエンス講座は、各大学で開講されていますが、明確なゴールがないまま90分 Python を教えて、あとは実務で頑張ってくださいとなげやりなところがあると感じています。今回のワークショップ形式では、それぞれのグループが限られた環境下でできることを議論し、如何にしてデータを利用して課題解決していけるかを考えて進めてきました。この考えの下地を、教える側も受講者側も共通して持っていけたらいいと思っています。これまで手法だけに閉じていた大学側も利用の仕方、目指すべきゴールを明確化し、実務に沿ったものを提供できるようにしたいです。」

広島大学 様

https://www.hiroshima-u.ac.jp/

革新的な研究による深い心理の探究と新たな知の創造に邁進するとともに、社会連携を積極的に行い、学内外問わず広く教育研究活動を支援・推進。

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