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顧客=資産という考え方

ロイヤリティマーケティングという言葉があります。これは自社にとって「ロイヤリティの高い顧客(優良顧客)」を育て、囲い込むことで、そこからの収益の安定化や更なる収益獲得を目指していくという取り組みです。

この取り組みは、リピート販促施策としてのスタンプカードから、次回使える通貨型ポイントプログラム等に発展してきていますが、多くの顧客に会員IDという背番号が振られるようになることで、顧客の状態の把握が可能となりました。そこからさらにWebやモバイル等のデジタルタッチポイントを通じた顧客とのコミュニケーションが進化し、様々な形での接点強化が図れるようになってきました。

そんな中で、企業の戦略・戦術においても、各顧客が生涯にわたって生み出す価値(収益)=LTVが注目されるようになってきました。顧客との関係性や繋がりを資産と見立て、この顧客資産が長期にわたって収益を生み出すという考え方です。企業の経営の目的は、社会課題の解決や収益最大化等ありますが究極的には事業の継続であり、その点では、長期間にわたっての収益を生む「顧客資産(=LTV)の最大化」」は企業経営の柱の一つになりやすいものであると言えます。

このような考え方は、顧客との関係性が基礎になっていて、何等かの顧客接点を持つ様々な業種で成果を生む可能性があることから、これまで自社と顧客の関係性を意識してこなかった業種においても、にわかに注目され出しているところです。

一方で、業種や業態によって顧客との関係性のあり方に差が生じることも考慮する必要があります。例えば、低価格・多頻度利用を前提とする業種と低頻度・高価格利用を前提とする業種では同レベルの関係性を築くことは物理的に困難です。そのため、それぞれの企業において、どこまで顧客との関係性を強化すべきか、という点は重要な命題になりますし、その観点では各顧客の購買力に合わせたウォレットシェアのような考え方も踏まえるケースもあります。

いずれにしても、顧客資産は、一部の優良顧客に留まらず、繋がりのある全ての顧客に視点を広げ、それぞれの顧客と企業との関係性を様々にマネジメントしながら高めていく必要があるということです。

では、この顧客資産を一体どのように高めて行けばよいか、その方法についてご紹介したいと思います。

顧客資産マネジメントをするために必要な要素

顧客資産を適切にマネジメントしていくために必要となる要素がいくつかあります。
まず大前提として必要なものが、「会員ID」です。IDは顧客一人ひとりを識別できるようにし、個人ごとの履歴や実績管理を可能にします。

次に、実際に顧客一人ひとりとコミュニケーションをとるためのチャネル(メールやSNS,モバイルアプリ等)とコミュニケーションの内容を検討し、実行する組織・機能が必要となります。チャネルがあってもコミュニケーションが適切に行われなければ、顧客との関係性を強化できないばかりか、逆に悪化させる恐れもあります。

そして、IDごとの実績データ等を収集・管理し、分析するための基盤も重要です。データの収集・分析は顧客が「何をいつどこで買ったか」などを把握する行為そのものであり、これがなければマネジメントはできません。また、データは集めておくだけでなく、モニタリングや分析等の用途に合わせて使いやすい形に加工したり、ツールを活用することも必要になります。

ここまでが、ある意味最低限必要となる土台ですが、顧客資産マネジメントを本当の意味で実施していくための武器になるのがロイヤリティプログラムです。ロイヤリティプログラムには、ポイントプログラムやランク制度などいくつか要素がありますが、これが顧客にとっての魅力を生み出す企業ならではの武器になり得るため、非常に重要な要素と言えます。

顧客資産マネジメントの方法

顧客マネジメントは、まず顧客を把握することからスタートします。自社において、どのような顧客がどれくらいいるのか、それは増えているのか、減っているのかなど定量的に把握することが必要です。顧客全体の状態だけでなくセグメントを切って把握する方がマネジメントしやすくなります。

顧客を把握したら、顧客の育成を考えます。顧客の動向を踏まえつつ、特定の顧客層をどこまで成長させるか、そのためにどんな方法が必要か、優先順位は、結果として収益にどのような影響を与えるかなどを検討します。必要に応じて、アンケート等の市場調査等を行うことで未だ顧客になっていない層の把握や実績からは見えない顧客の嗜好性などの把握も一定可能となるため、打ち手のバリエーションや精度の向上を図ることができます。

具体的な育成のための活動は、プログラムやコミュニケーションを通じ顧客の行動変容を促す活動が中心になります。プログラムにおいては、一定以上の利用があった場合や複数商材の購入があった場合に特典を提供するなど、アップセルやクロスセルを顧客が自発的に行うようなインセンティブを設けます。 コミュニケーションにおいては、顧客のニーズを予測し、必要なコンテンツを提供したり、商品・サービスの利用を促したりしますが、究極的には個々人の嗜好に合わせたパーソナライズドコミュニケーションや顧客が今求めているものを最適な手段やタイミングで届ける4Rコミュニケーションの実現を目指すこともあります。 この点においては、販促とオーバーラップする部分もあるのですが、大きな違いは、その目的が事業の短期的な売上ではないということです。そのため、顧客育成観点でのKPIの設定も不可欠です。

顧客資産マネジメントと事業の関係

このように、顧客資産マネジメントの仕組みの部分を実行し、進化させていくことと同時に忘れてはいけないのが事業(商品・サービス)の進化です。

アップセルやクロスセルを促す仕組みがいかに強力であっても、実際に取り扱う商品・サービスが限られていると必然的に顧客育成の限界を迎えます。その場合、自社として事業領域の拡大を図ったり、親和性の高い他の事業者と提携して相互送客・囲い込みを図るなどの方法が考えられます。

国内で有力な共通ポイントを抱えている事業者の場合、経済圏という形で主力事業を軸としつつも、様々な領域に進出しています。ここにおいては、日々の生活からレジャーなどの非日常、更にストックである金融領域まで広げて顧客のウォレットシェアの拡大及びLTVの最大化を図っています。

また、昨今では独自の決済サービス(主にコード決済)を導入する企業が増えています。これには、決済手数料の低減によるポイント等の顧客還元の原資確保や決済データの取得など様々なメリットがありますが、顧客にとってはその決済サービスを使う魅力次第で利用の有無が決まるため、、導入にはしっかりとした戦略が必要になります。

顧客資産マネジメントの導入方法とアポロの支援

基本的には、PDCAサイクルを回しながら、顧客資産をマネジメントしていくことになりますが、前述の必要な要素を整えるだけでも、一定のコスト・時間を要します。

そのため、まっさらな状態から検討する場合には、そもそもそれを実施する目的や実現可能性・勝ち筋など戦略的な観点での検討を一定行う必要があります。

ただ、多くの企業においては、既に何かしらの要素が整っている、あるいは既に何らかの取り組みは始めている状況であるため、それぞれの段階に合わせた対応が必要になります。

例えば、ある程度顧客データ自体は集まっているが、それを業務に落とし込むためにどのような仕組みが必要かわからない場合、業務における活用方法を規定し、そこでの使われ方を考慮した最適なデータ活用環境を検討する必要があります。

また、顧客データやデジタルタッチポイントを活用した顧客育成のプロセスが一定回っているが、それぞれが機能分散していて、全体最適化が図られていない場合、企業全体の目的・ゴールの再定義を行い、機能横断的なマネジメント態勢の構築を検討する必要があります。

このような各企業における課題は、実は類似の目標・ゴールに向かう途上の各段階で発生し得るものがほとんどであり、アポロはそれらの課題を体系的に把握しているため、各企業の状況に合わせたご支援をすることが可能です。

実際には、大上段の戦略の話だけをしていても、成果が生まれづらく、企業内でのコンセンサスが図りづらいこともあるため、並行して足元でのクイックな成果の創出を同時に進めることも多々あります。実践経験に基づく現実的な支援がアポロの強みです。

この記事の著者

遠藤 淳史

取締役 / Business Division Lead

ソフトバンクに入社後、コンサルティング業界に移り、PwCコンサルティング及びアクセンチュアにおいて15年以上にわたり、経営戦略、組織改革、人材育成、営業推進、CRM・マーケティング、IT化戦略などの領域でコンサルティングを実施。

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