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現在卸売業界が直面する課題

 

卸売業界は、小売・メーカー双方が「苦手とするところ」を代行することで発展してきていましたが、近年、技術の発展や、メーカーや小売会社の成長により、従来の卸売会社の「強み」が薄れてきています。たとえば、以前は、メーカー・小売ともに、取引相手を探すために、卸売業者による仲介が欠かせませんでしたが、近年は、インターネット経由でメーカーと小売業者・消費者が直接取引できる仕組みが広がり、卸売業者が介在する余地が減りつつあります。また、以前は、メーカーや小売の自社物流機能は弱く、効率的な配送や在庫管理のために卸売業者が欠かせませんでしたが、近年は、メーカー・小売ともに、自社物流に力を入れるようになってきたため、卸売業者への依存度合いが下がっています。実際、こうした要因により、卸売業界の売上や、従業員人数は減少傾向にあります。

課題解決に向けた考え方

このような状況下で生き残るために、卸売業者は、メーカーや小売では決して出すことができない、「卸売ならではの価値」を作っていくことが求められていると、考えられます。メーカー側とも、小売側とも、たくさん取引しているからこそ、初めて出せる価値。「卸売ならではの価値」の出し方のひとつとして、メーカー側と小売側の「ニーズの食い違いを解消する機能」の提供があると考えます。しばしば、メーカー側と、小売側で、「望ましい」と思うものが食い違います。

  • 小売側は、買う量を細かく調整したいが、メーカー側は、大きなまとまりでしか売りたくない。
  • 小売側は、急な需要増減にたいして、調達量を調整したいが、メーカー側は、急に言われても困る。
  • 小売側は、色んなものをちょっとずつ取りそろえておいてほしいが、メーカー側は、売れるかどうかもわからない色んな商品を置いておきたくない。
  • 小売側は、こまめに商品を運んでほしいが、メーカー側は、トラックを空っぽで走らせたくない、不必要にたくさんトラックを走らせたくない。

こうした「食い違い」へは、たくさんのメーカーと取引があり、かつたくさんの小売と取引がある、卸売業者が、最も効率的に対応できるものです。したがって、この方向性を追求することが、メーカーや小売業者が、卸売業者を利用する強い動機づけとなり、卸売業界が、今後活性化していくためのカギになるのではないか?と考えます。

本当に難しいところ

上記を実現するためには、需要を正確に予測し、小売側・メーカー側双方のニーズも満たす形で、発注のしかたを最適化することが必須ですが、実際にやりきることは難しく、なかなか導入が進んでいないことが実情であるように思います。難しい理由としては、商品も、取引先もものすごく多く、考慮しなくてはならないことがたくさんあることが挙げられます。実際に、需要予測や発注計算において、考えなくてはならない「難所」の例として、下記があります。

需要予測

  • まず、需要予測対象商品は、SKU単位で数万~数十万にのぼる。
  • そのなかには、毎日売れる定番品以外に、滅多に売れないものや、特定の季節・イベント付近でのみたくさん売れるものもある。
  • 季節だけでなく、地域によっても売れ筋商品はさまざま。
  • また、頻繁に新商品が発売されたり、廃止されたりする。
  • 一見すると新商品であっても、実は別商品の代替品であることもある。
  • また、大型連休前は、あらかじめ小売業者から注文を受け付けている商品がある。
  • ひんぱんに新拠点が開設され、既存の拠点での取引量が大きく変動する。

発注計算

  • 極力欠品は減らしたいが、当然ながら、おける商品の量・発注できる商品の量には限りがある。
  • また、賞味期限切れ廃棄も減らしたい。
  • とはいえ、さまざまな取引制約がある。たとえば、
  • 商品ごとに、到着するまでのリードタイムが違う。
  • 卸売・小売・メーカそれぞれ休業日があり、納入できない日にちや発注できない日にちがある。
  • メーカーとしては、ロット単位で買ってくれないと困る。
  • トラックの積載率が一定を割り込むような発注はしたくない。

 

上記のような要素を漏れなく考慮したロジックをつくることは難しいため、結局、単純な四則演算レベルの発注計算ロジックに留ってしまい、小売・メーカーが自社で持っている物流機能との差別化につながっていないのではないか、と考えます。

どのように進めていくべきか?

高精度の需要予測・発注計算のためには、機械学習や数理最適化に関する深い理解が不可欠です。しかし、必要なものは、それだけではありません。ロジックを組み立てる以前に、需要に影響を与えうる、様々な要素や、発注最適化計算で考慮するべき取引制度・商習慣をあらいだしていかなくてはならず、そのためには、徹底的なデータ分析や、深い業務理解も極めて重要です。

当然、ロジック構築の前段での業務理解は重要ではありますが、しばしば、机上で議論していてもなかなか見落としに気づかないもので、現物を見て初めて抜け漏れに気づくことがあります。そこで、ロジックが組みあがった後に、業務担当者の方に、見るべきポイントを見てもらい、これで使っていけるとご納得いただくまで、ロジックの改善を繰り返していくプロセスが必要となると考えます。

また、SKUが多かったり、取引先が多種にわたっていたりすることにも起因して、一発で、全商品自動発注できるようなロジックは、通常できません。実際に日々データを見ていくと、「このメーカーは、例外的な発注ルールがあるから、そもそも自動発注は無理だと気付いた」、「重要な要素を見落としていたために、需要予測精度が悪化していることに気付いた」などといったことが発生します。

そこで、運用が始まった後も、日々データをモニタリング・分析しながら、運用ルールやロジックを改修していく必要があり、その実現のためには、情報システム上の仕組みや、業務担当者と情報システム担当者・データサイエンティストの協力体制を作っていくことが不可欠です。

弊社ができるご支援

卸売業界が、小売・メーカーにたいして、「独自の価値」を提供していくために、需要予測と在庫最適化が極めて重要であることについては、おそらく大きな異論はないと考えられます。にもかかわらず、現状、なかなか需要予測と在庫最適化の高度化が進まないのは、上記のような、AIモデルを構築し、運用していく「やり方」があまり普及していないことが原因ではないか、と考えます。

多くの卸売業界企業様において、社内に、AIの構築・運用に関するノウハウを持つ人が少ないだけでなく、(失礼ながら)多くの分析専門会社や、大手含むコンサルティングファームにおいても、進め方が体系立てて整備されておらず、担当者によってデリバリー品質にばらつきがあるのが実情のように感じます。結果的に、失敗事例が目立ち、AIの活用に躊躇してしまい、なかなか需要予測や在庫最適化の高度化が進んでいないのではないかと考えられます。

弊社は、これまで(主要メンバーが前職コンサルティングファームで得た経験も含めて)数々の卸売業を営むお客様をご支援してきた経験から、AI構築の独自ノウハウをもっております。ビジネスコンサルタントとデータサイエンティスト・システムエンジニアの3者が密に連携し、お客さまにとってベストなものを作っていける体制が整っております。お客さまの、ご予算や課題感に応じて、最適な進め方をさせていただきたいと思います。

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